証券コラム
2012/01/20 山崎元「ホンネの投資教室」
第165回 低成長時代に、インデックス運用はダメなのか?
よく聞く話ではあるが
ある企業経営者がネット上の連載に書かれていた論考の中に、次のような文章があった(個人の批判を目的としていないので、敢えて出典を記さない)。
「また、低成長を前提とすれば、(高成長を享受する)インデックス投資等のパッシブ運用にもあまり大きな期待は寄せられない。理屈からすれば、低成長時代の株式投資は、成長企業を選別するアクティブ運用にならざるを得ないように思われる。」
論考全体は、日本が低成長である現実を踏まえて、低成長が常態であることを前提としてものを考えるべきだと指摘する納得感の高いものだったのだが、上記に引用した部分には少々違和感を持った。
筆者が違和感を持ったのは事実であるが、この意見は1980年代からある、比較的よく聞く意見でもある。先の文章をお書きになった方がそう思ったかどうかは分からないが、この意見の背後にある思考は、たとえば、以下のようなものだろうか。
「インデックス運用は、市場平均に対する投資だ。日本経済全体が低成長の場合、日本の株価が全体として上昇することは難しいだろう。この場合、平均に対する投資であるインデックス運用は明らかにダメだ。成長企業に選別投資するアクティブ運用ならば、リターンを得ることが出来る可能性がある。」
低成長なら株価は上がらないか?
先の議論の正否を検討するポイントは、実は二つある。
- 経済が低成長だと株価は上がらないのか?
- 市場平均が下がる時にインデックス運用はアクティブ運用に劣るのか?
以上の二つだ。
そして、上記の二つの疑問に対する答えは、何れも「そんなことはない」が正解だ(と筆者は思う)。
経済が低成長だと株価は上がらないのかについてはどう考えたらいいか。
あるべき株価を将来一株利益の割引現在価値の合計として簡単にモデル化すると、投資家の将来利益に対する割引率(r)が既知且つ一定で、将来の成長率(g)が一定だとした場合に、現在の株価(P)は、今期(1年先)の一株利益(E)に対して、以下のように決まる。
P=E/(r-g)
たとえば、割引率が7%で、成長率が2%なら、r=0.07、g=0.02で、分母は0.05、即ち株価は一株利益の20倍(PERが20倍だ)ということになる。
ここで、成長率をゼロに引き下げると、分母は0.07になって、株価はEの14.29倍に下がる。30%近い下落だ。
但し、それぞれの状況で形成された株価に対して投資した時に想定される(=モデルが想定する)投資利回りは、何れも7%であり、変化は無い。
つまり、投資家が低成長を想定している場合、現在の株価が下落して、いわば発射台が下がり、その後のリターンはリスクに見合うと投資家が考える割引率に一致するということだ。
つまり、現時点で投資する場合に、これが投資家の想定する割引率以上に儲かるか否かは、割引率が変わらないとすると、一つには、現在の株価が正しいか否か、もう一つには将来の成長率が現在の想定よりも上ブレするか下ブレするかによって決まるのだ。
低成長が期待されていて、これに見合った株価が形成されていて、これに投資した場合、将来予想通りの低成長だったとして得られるリターンは、割引率そのものだ。これは、高成長が期待されていて、それに見合った株価が形成されて、これにトスした場合に、将来予想通りの高成長が実現した場合のリターンと同じだ。
経済が低成長だと株価全体は(或いは、平均株価は)上がらないという命題は、一見常に正しいように見えるかも知れないが、株式市場はそんなに単純ではない。
「でも、事実に照らして、これまで日本が低成長化する中で日本の株価が下がってきたではないか?」という向きは、過去の株価下落を「大方の予想した以上に低成長がしたから」という理由で再解釈することと、今の株価が今後に実現すると思われる成長(たぶん低成長)を十分に織り込んでいるか否かを考え直すことを試みるといい。
「平均株価は、必ず上がる」などと言えるものでは無いが、低成長下であっても「上がっておかしくない」ものであることが納得されるのではないか。
下げ相場でインデックス運用はダメなのか?
さて、低成長でも平均株価が上がっておかしくないということを納得して頂いたとして、この論点を脇に置いて、もう一つのポイントを検討しよう。
「相場(全体)が右肩上がりでなければインデックス運用はダメだ」という意見はよく聞くし、確かに全体が上がらなければ平均も上がらない、という点に限定するとこの意見は正しいのだが、上げ相場でない場合はアクティブ運用の方がいいというのは本当なのか?
インデックス運用が、正確に市場の平均的なポートフォリオを代表していると仮定して考えると、インデックス運用のポートフォリオ及びパフォーマンスは、アクティブ運用全体の平均ポートフォリオ及び平均パフォーマンスと一致することが分かる。
この場合、両者の平均についてポートフォリオではなく、「商品」としてのパフォーマンスを比較すると、アクティブ運用の方が手数料が高いことと、トレーディングコストがより多く掛かることによって、インデックス運用に必ず負けることが分かる。
インデックス運用(より正確には市場平均ベンチマークによるパッシブ運用)とアクティブ運用の優劣比較の根本にある構造はこの点であって、前者の後者に対する優越は、市場が効率的であるか(株価が正しく形成されているか)ということとは無関係に成立する運用業界にとって無慈悲な事実なのだ。
現実的な問題は、先の引用文にあったような「成長企業を選別するアクティブ運用」といったものが成功するかどうか、また、成功するとして、投資家が成功する運用者を「事前に」見分けることが出来るか、ということになろう。
先に成長率と投資のリターンの関係について考えたが、これと同じモデルを個別銘柄に当てはめて考えると、市場平均以上の投資パフォーマンスを得るには、「他の投資家がこれまで予想していたよりも成長率が高い銘柄」を事前に見分けて投資できるのでなければ(つまり他人に勝てるのでなければ)、「成長株への選別投資で」より高いリターンを得ることは難しいことが分かる。
但し、この場合、将来実現する成長率自体は低くても(たとえばマイナスでさえあっても)、今思われているよりも成長率がマシになる銘柄を事前に見分けることができれば、高いリターンを上げることができることも付け加えておこう。これは、低成長の世の中にも、高成長の世の中と同じくらいのアクティブ運用のチャンスがある、ということだ。
特定の投資家は、市場の他の投資家を予想の上で出し抜くことが可能だろうか。世の中には、これが可能だという前提で商売をしている人が大勢いるが(ファンドマネージャー時代の筆者もその一人だったということは認めよう)、それが「できる」という立場は、行動経済学では「オーバーコンフィデンス(自信過剰)」の典型的なケースとして研究対象になっているところだ。優しい言葉をかけるなら「自信を持つのは勝手だが、現実は厳しいよ」とでも申し上げるべきか。
最後の問題に辿り着いた。
相対的に優れたアクティブ運用の商品なり運用者なりを、顧客たる投資家が、事前に見つけて投資することは可能だろうか?
残念ながら、これが可能だという証拠は見つかっていない。また、一般論としてこれが可能なら資金が「優れたファンド」に集中して、このファンドにアクティブ・リターンを提供してくれる「劣ったファンド」に資金が無くなってしまうから、「優れたファンド」はその優位性を保つことが出来なくなってしまい、アクティブ・リターンは手数料に負けるだろう。但し、幸か不幸か、現実に、優れたファンドを事前に見分ける方法は確立されていないので、このようなことは起こっていない(だから、クズのようなアクティブ・ファンドが山のようにある!)。
現実に適用できる方法の裏付けが無いのに、「成長企業を選別するアクティブ運用」などという甘い夢を大衆に見せるのはいかがなものだろうか。
楽天証券「楽天証券経済研究所 客員研究員」山崎元
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